逆引きの顛末?
         〜789女子高生シリーズ
 
 


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せっかくのアドベント、しかも金曜の午後だというに、
在日大使の要請とやらで英国からわざわざ来日したお嬢さんがいて。
やんごとないご身分の人だということより、
この世代のイギリスの青少年たちも
日本の現代文化には関心ありますというパフォーマンス、
若者が集まりそうなところを視察したり、
文化関係の集いへ出席し、
ご挨拶を述べた後はニコニコしつつ座っているだけというから、

 “それはそれで、大変なお役目ではあるんだろうねぇ。”

遊びたい盛りだろうに、大人みたいな“使節”なんてものを拝命し、
外国へやられて、そんな堅苦しいことやらされるなんてねと。
どう見ても自分の意志で参加したとは思えない、
これといって意見も発しないからだろう、
傍においでの通訳の方もじっとしておいでという状況から、
易々とそう読んでしまっているのは誰あろう、

 「おんや、警視庁のホープ、佐伯巡査長じゃあないですか。」
 「う……。」

英国の若者文化と日本のサブカルチャーが集っておいでの講演会にて、
壁の花よろしく、その気配を消して待機中の背広姿の男性へ。
それでも集中してらしたはずだというに、
気づかぬうちのいつの間にやら、
ひそめた声が聞き取れるほどの間近まで寄っていた存在ありき。
うあと驚きかけたが…そこはさすがに経験値もあってのこと、
ぐっとこらえて身動きしないまま、
視線だけを向け“驚かしやがってこの野郎#”というお怒りを
微笑うと人懐っこいが、
真顔は少々鋭角な面差しの佐伯征樹さんが示して見せれば、

 「おお怖い。」
 「つか、貴様がいるってことは もしかして…。」
 「それはこっちの台詞です。」

さすが、元双璧で話が早い早い。
でも それでは読み手が置いてかれてしまうので、
状況から浚い直してみるならば。
此処は都内の某公会堂で、
広々とした講堂にて、先に述べたる文化講演が催されているところ。
そこへと特別ゲストとして
英国の瑞々しき十代の代表という格好で招かれておいでだったのが、
つややかな金の髪も麗しい、なかなかにキュートなお嬢さんで。
それほど仰々しいSPだの付き人だのに取り巻かれてもおらず、
今は通訳の女性が斜め後ろについているだけ。
政府要人の子女というほど
厳重なガードが要るような級のお人じゃあないらしいのだが、

 それでも、警視庁の刑事さんが見守っておいでと来ては

もしかして只者ではないんですかと、
声をかけて来た側、
柔らかいくせっ毛がロマンチックな印象を醸す、
あくまでも民間人の丹羽良親さんが訊くより前に、

 「あのお嬢さんたちと懇意にしている貴様が此処にいるってことは。」
 「だから。たまたま通りかかっただけだっての。」

この公会堂の別の階のホールで婚活の集いがあったんだよと、
自分の本来の肩書、
ブライダルチェーンを束ねる企業の御曹司という立場から
居合わせたまでと主張する彼だが、

 「どうだかな。」

征樹さんが目許を眇めたのは、
こちらの良親さんが
とあるお嬢様たちと仲がいいのを何故だか警戒してのこと。
お前、いやさ あんたの方こそ
何でまた管轄違いだろうに護衛なんてと、
意外そうに訊いたのだって、
どこまで本気で不思議がっているものなやらと感じておいでで。

 「もう知っているだろうが、
  あのお嬢様は例の女学園へも招待されているらしくてな。」

 「おや、それは初耳。」

何なに、姉妹校からのお客様ってカッコとか?なんて、
白々しく訊いてくるのへ、
そこまで詳細を知ってて、何を訊くやら言うのやらと、
はあと吐息をついた征樹殿。

 『何でもかんでもあやつらが咬んで来るとか、
  騒ぎになると思うのも早計だがな。』

そうという懸念が沸くこと自体、
そうとしたいのかと悪魔が悪いほうへ機運を引っ張りそうなという、
究極的な運の悪さには、
嬉しかないが遠い昔にイヤってほど身に染みておいでの。
蓬髪に顎髭も当時のままな風貌という、
某敏腕警部補殿が言うことには。

 それでも女学園の名が出た以上、
 何かしらの現場になり得る訳じゃあある、と。

それを望んではないけれど、
コトが起こったときに、彼女らが飛び出さぬよう、
すべて心得ている自分たちが 居合わせるに越したことはないからと。

 「勘兵衛様が
  最低限マークしておいた方がいいだろうと仰せでな。」

 「それって、信用あるんだか無いんだかだねぇ。」

この時期ってそれでなくとも
強盗とか対人交通事故とか多くて忙しいんだろうになぞと、
素人でも知り得る範囲内ながら、
こやつが言うともっと知ってそうに聞こえる言い回しをされ、
すっかり、むっかりと不機嫌になってしまった征樹様。

 「てぇい、部外者は出てけ。」
 「はいはい。あ、もう終わりそうだしね。」

それじゃあと
壁沿いに出口へ向かうかつての同輩を忌々しげに見送り、
壇上を見やれば、
サブカルチャーの実例として上がった
ゴスロリやコスプレ姿のお嬢さんたちと
招待されていた演者とが披露した、
簡単なディスカッションが終わったところ。
今日の予定はこれまでらしく、
再び司会者から紹介され、席から立っての会釈をしたお嬢さんへ、
場内が震えるような万雷の拍手が集まった中、

  ……だんっ、と

たとえばバスケットの試合中、
正念場のクライマックスで
鮮やかなダンクシュートが決まる瞬間を思わすような。
板張りの床を相当に分厚い靴底が強く叩いたような、
重量のあるものが思い切っての跳躍に舞うために強く踏み切ったような、
そんな異質な響きが重々しく落とされて。
皆が何だ何だと見回す中を縫った視線が捕らえたは、
バットのような長い何かを頭上へと振りかぶった、
いかにも凶悪で異様な存在。
さながら、海原から飛び出した鯨の姿を思わせたが、
こんな大人しやかな文科系の集まりへ、
荒々しくも凶器振りかざす奴が そんな崇高なものであるはずがなく。

 「があっっ!!」

息をひそめ、隙をついての末に、
標的のここまで間近に近づけた喜悦にだろうか。
双眸見開き、醜くも にたりと笑う襲撃犯が、
今まさに…自身の落下加速も乗せた上で、
その凶悪な得物を振り下ろさんと仕掛かっていたところだったが、

 「天誅っ!」

そのまた後方から、ていっと、
それは絶妙な間合いと角度にて、
しなやかな足が伸びやかに繰り出され。
脾腹をげいんと強く蹴り飛ばされたことで、
その身がぐるんと、90度ほど横へ回ってしまい。
しかも、

 「え? ひわぁああっっ!!!」

そんな襲撃者へ、
何故だか襲われた身のお嬢さんが壇上で手を伸ばしており。
金の髪をさらりと背中へ流した、凛とした立ち姿も麗しく。
着席していた場所からは
触れるまでもなくのまだ距離があったにもかかわらず、
その小さくて可憐な手のひらから、

  ばちぃ、ばりばりばり・ばちちばちぃ……っっっ、と

小さな稲妻のような火花が立って、
正しく電撃という格好で、相手へ襲い掛かったから物凄い。

 「ぎゃあっ。」

よほどに痺れたものか、
宙で一度びくりっと撥ねてから、
壇上の側の板の間へどさりと落ち、
そのまま人事不省になったか伸びてしまった襲撃者で。

 「あ……。」
 「う…。」

もしかしてこれってテロの一種?というよな、
それはそれは恐ろしい事態が起きたのも確かなら、
だが、か弱き少女たちの鮮やかなお手並みで、
瞬殺という勢いで幕を下ろしたのも事実だ。
加えて言えば、
気を失った存在が足元へ どうと倒れ付してもいて。

 この経過と結果にあって、
 どういう反応を示せばいいのやら、と

事情も判らず、そのせいで、
現状へ乗り遅れてしまったからだろう。
壇上に居合わせた司会者や若めの参加者らが、
勿論のこと、段取りになかった流れへ凍りつき、
場内もしんっと静まり返ってしまったものの、

 「ワタシ、ミカサちゃん大好きデスvv」

英国からの麗しき賓客様。
手首と中指の付け根に渡す格好で手のひらに装着していた何かごと、
愛らしい手をひらひらとかざしてから。
それもまたどっから出したか、
一枚のコインをぴんっと親指で宙へ向けて弾いて見せつつ、
判る人には判るだろうキャラクターの名を口にしたものだから、

 場内は ワッと一気に沸いて
 やったぞ、凄いぞという歓声に満ちる。

 『間合いというか、言い方がよかったんだろうね。』

そんな名前やキャラがいるとか、どんな個性かとかいうことが、
何も誰も彼もに通じた訳じゃなあかっただろうが。
いかにもな恐持ての乱入者を
華奢なお嬢様が二人だけで、芝居がかった展開でねじ伏せたり、
特撮みたいな小道具で倒して見せたのが、
演技だ余興だと思わせた、その持って行きようが何とも絶妙。
落ち着いて見やれば結構大柄な襲撃者であったのだが、
まずはと蹴り飛ばしたのが、白ブラウスにベージュのブレザー、
襟元には、お膝まで到底届かぬミニスカートと同じ柄のスカーフを、
ふんわりとリボンに結んだ、
いかにも今時の女子高生といういで立ちのほっそりとした少女であり。

 “…どこで調達したんです、その制服。”

いつもだったらセーラー服でしょうに、
スカートの下には白地の短パンもはいていての用意周到。
お転婆な狼藉に沿うて
ふわっと躍った金の綿毛がなかなかワイルドな、
実は三木さんチの久蔵お嬢様だったし。

 「ふあ〜。
  ヘイさんたら、こんな凄いのよく使いこなしてるなぁ。」

場内を沸かせたその手から、
凄まじい稲妻を繰り出したお嬢様の方は、
言わずと知れた、

 「おシチちゃん〜〜〜。」
 「あ、征樹様、お久し振りですvv」

わぁいと手を振った傍らというか、すぐ周りには人もおらずで、
白いクロスで覆われた長テーブルの陰からひょこりと顔を出したのが、
本来のイギリス人の令嬢と通訳さんと、それから、

 「帯電防止のキットがついてるから、使う分には安全なんですよ。」

彼女が彼女らを避難させたらしい、平八までも揃っているからには、

 “ちい、やられた。”

きっと先程 良親に話しかけられた隙に、
さささっと絶妙に入れ替わりの、
久蔵の側も待機位置から襲撃者確保の位置へ移動しのと、
大きく動いていた彼女らだったのだろうし。
それより何より、

 “こういう陰謀のネタを、
  何でまた こっちじゃあなく
  向こうへ流すかな、あやつは。”

警備を厳重にして、襲撃自体を封じたものをと、
騒ぎが起きてしまった流れ、忌々しいと苦虫咬んだ征樹殿が見回しても、
もはや双璧の片割れの姿はなくて。

 『いやいや、今回のは
  良親さんが持って来たんじゃないんですって。』

むしろ、一枚咬むかと久蔵さんが持ちかけた格好、と。
そんな風にしゃあしゃあと言ってのけた三華様がた。

 『だって、アンリエッタさん、
  本当はこういうの緊張しちゃってダメだって言うんですもの。』

テーブルの陰、ヘイハチにしがみついて震えておいでの、
本当の外交大使だった金髪のお嬢様。
何でもない場でも、人前に出るのがおっかないほど、
それは内気な人性だそうで。
だがだが、親御に何かの義理があるものか、
年齢が丁度いいからと、大人しくて品行方正なところを買われ、
ほんの2週間でいいからと、
日本での英国イメージ向上作戦への行脚に駆り出されてしまわれた。

 『一子が友達だというし。』

短いスカートはバレエのチュチュで慣れてるらしいヒサコ様が、
もはや立派なコスプレにあたろう、
どこのだそれという制服姿で暴漢へ蹴りを入れているシーンは、
ちらっとネットへ流出しかけたが、
そこは電脳小町が 某国の人海戦術に負けぬほど
完璧なチェックを掛けていたので コトなきを得たそうで。

 ……いや、それはどうでもいい。(笑)

彼女が妹みたいに可愛がっておいでの一子様経由、
本当は嫌なの、怖いのという
本心からのお気の毒な呟きを拾って差し上げ。
お友達になってお茶会にご招待したり、
来週試験があるの
“ひぃいいぃぃ”という大騒ぎを見物いただいたりし。(おいおい)
すっかりとリラックスしていただいた上で、

 『だって来週の今日って13日の金曜日ですし。』
 『???』

そこは女子高生らしさか、
何でもかんでも“だって”で盛ればいいと思っているところ、
とうとう失速しかかったものの、

 『テスト直前で、私たちも暴れたい気分だったんですよ。』
 『おいおい、身も蓋もない。』

彼女のスケジュールを検討し、
あまりに開放度の高い今日のイベントは危ないに違いないと踏んで、
催しへのお出掛けに同行して来たお三方。
勿論、正式な随行なんてのは無理だったから、
参加者として会場に入り込み、

 『久蔵殿が“超振動”なんていう
  便利な技を思い出しておいでだったので。』

壇上の真下から道具もなしに穴を開けておき、
そこに潜む格好でお揃いの格好をした七郎次と、
通訳を兼ねた平八とが至近で護衛する態勢につき。
久蔵だけは、俊敏さを生かしての遊撃手として、
臨機応変に対処せよとされていたのが、それは見事に炸裂したまで。
はぁあと も一度ため息をついた征樹殿、スマホを取り出すと、

 「…こちら佐伯です。
  勘兵衛様ですか、
  問題の要護衛対象への襲撃者があり、
  警備のかたがたが、所轄の署へ連絡を取っておられるので任せます。
  ええ、身柄は確保してますし、庇護者も無事ですし、
  懸念していた顔触れも見事に揃っております。」

 「…っ。」

こらこら勝手に解散しない、と。
ぴゃっと飛び上がって、やや慌てて立ち去りかかるお嬢さんたちのうち、
身代わりを務めていた金髪娘の腕を取り、

 「今すぐ来て、しっかり雷を落としてくださいませ。」
 「ふやぁん、征樹様、ずるいよぉ。」

自分では効果ないからって勘兵衛様呼ぶの?と、
上目遣いになっての含羞みながら、とはいえ、
部分的に ちょー失礼の上塗りしている七郎次なの、
平八が気づいて“プククvv”と吹き出してたりするのだが。

 「そっちの二人も、保護者を呼ぶから覚悟しなさいね。」
 「あらら。」
 「〜〜〜。」

 でも、ゴロさんは明日まで木更津に出掛けておりますが。
 ヒョーゴも大阪で学会だぞ。

 「ほほぉ、そっちの“保護者”を呼んでほしかったのかなぁ?」
 「あ…。//////」
 「…っ。/////」

ええ ええ、どうせね、
このくらいの意趣返ししか出来ませんからねと、
ややもすると目が据わっておいでの征樹さんから、
揶揄されて真っ赤になったお嬢さんたちで。
会場が会場なだけに、
特撮ヒロインにとスカウトされたりこれ以上の写メで撮られる前に、
どっかへ退避した方がいんでないかいと。
余計なお世話の、それでも大事な進言をする人はいないのか。
相変わらずに落ち着きのない、困ったお嬢様たちの一騒ぎ冬の陣。
これにて幕としとうございますvv






     〜Fine〜  13.12.06.


  *期末考査前に何やってるかな、お嬢様。(笑)
   つか、やっぱり下準備にいっぱい書かなきゃいかん割に、
   暴れるところは さささっと済んじゃうのが少し不満ですが、
   そっちもじっくりしたのにしたけりゃ、
   全体的に壮大な仕立てが要りますしねぇ。(とほほ)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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